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海と空とDMと・・・

海と空とDMと・・・

DM FIGHT その「イ」

『デュエルマスターズ(以下、DM)とは……光、火、水、自然、闇、の五つの文明のカードを使い、相手の五枚のシールド(以下、盾)をブレイクし、先にとどめを刺すカードゲームである。』


=第一話・竜の目覚め=


カードゲームなんて子供の遊びだ。
俺は始めはそう思っていた。
だが、そんな考えもあの出来事の後では砂塵と化した。


「DMカードだぁ?!お前、高校にもなってカードなんかで遊んでるのかよ……」
よくある高校の一室、2-4で叫んだのは、俺、堂本 竜也(どうもと たつや)だった。
「ま・・・まあまあ、話を最後まで聞いてくださいよ。実は、今度近くの公民施設で大会があるんです。」
オロオロしながら話すのは、俺の友人、中村 英司(なかむら えいじ)その人だ。
「それがどうしたんだよ・・・」
「実は、どこにあるのか分からないんですよ」
「連れてけってか?」
英司は屈託のない笑みで首肯する。
「おあいにく様、俺はそういう遊びには興味が無くてな・・・他をあたってくれ」
「大丈夫、タツ君も一緒に出たらいいんですよ」
「・・・何?」
「なんと、優勝者には商品券一万円分がもらえます。タツ君の欲しがってた音楽機器もそのくらいの値段でしたよね~」
親しい奴にしか呼ばせない俺の代名詞で呼びかけ、英司は眼鏡を上げながら言う。しかし、興味の無い物には無関心な竜也の答えは味気ないものだ。
「くだらねぇ。欲しい物のために、カードなんかやる訳ないだろ。」
「タツ君・・・」
「分かったなら教室に戻りな。」
話はそれまでと言いたげに、竜也は携帯を徐(おもむろ)に取り出す。
「分かりました。タツ君は負けるのが怖いんですね。それじゃあしかたがありません。」
「何だと?」
携帯の画面から視線を離し、睨むようにして英司に向き直る。
「確かに、スポーツ万能、成績優秀の輝かしい人生の中に、敗北ほど恐ろしい物はありませんからね。イヤ~、残念ですね~。」
「おい、誰が負けるのが怖いだと?冗談じゃねぇ、俺は負けることなんてねぇ。そんな事、お前が一番知ってるだろ。」
「さぁて、そうでしょうかねぇ・・・?」
「・・・分かった分かった、じゃあ一回だけ遊んでやるよ。それで俺が負けたらその大会に行ってやるよ」
全く、こいつは一度言い出したら諦めねぇからな・・・軽くあしらったら諦めるだろう。



結局、二人は帰りにカードショップなるところに寄って『スーパーデッキ・ゼロ』と呼ばれる構築済みデッキとその他諸々を買い、そのまま竜也の家に流れ込む。
「・・・ルール説明と各文明の能力の説明はこれで終わりです。では実戦でもしてみましょうか。」
帰る道中、淡々とルール説明等をして喉が渇いたのか、英司は人の家のオレンジジュースを飲むのをやめない。
「栄司って、こういう時は動作が速くなるな・・・後、糖尿病になるぞ、っと」
再びコップにジュースを入れようとしていた英司の手からビンをもぎ取り、自分の傍らに置く。
「・・・気にしなくても良いですよ。それより、先行はタツ君に渡しますので、頑張ってください」



(俺の場には、チッタ・ペロルとアンビシャス・ドラゴン・・・シールドは4枚。英司は、電脳聖者タージマルとタップ状態のアクアンか・・・シールドは5枚。)
「タツ君の番ですよ?もうお手上げですか~?」
「ふざけんな、まだこれからが見せ場だよ!・・・6マナ使って、いくぜ『ボルメテウス・武者・ドラゴン』召喚!」
今日買ったカードの目玉の一枚、スーパーレアのボルメテウス・武者・ドラゴン。6000とパワーは控えめだが、自分のシールドを破壊すれば相手のパワー6000以下のクリーチャーを1体破壊できる。
「切り札登場ですか、ならば・・・呪文、『ヘブンズ・ゲート』!手札から『天海の精霊シリウス』を2枚、場に出します。」
ヘブンズ・ゲートは、手札から2枚まで光のブロッカーを出せる呪文。故に、マナコストの重いクリーチャーも易々と出て来れる。
「12000がニ体?!ありえねぇ・・・」
「まだです。アクアンでシールドをブレイクします!」
破壊されたシールドから、奇跡は起こる。それがデュエルマスターズの長所であり、時に勝敗まで決まる。その奇跡が今起こる。
「・・・来たっ!!シールド・トリガー発動、デーモン・ハンド!」
どんなクリーチャーも破壊できるという、闇特有の破壊能力に優れた一枚だ。
「シリウスを一体破壊するぜ。」
「ですが、まだ僕にはもう1体シリウスがあります。さて、タツ君の番ですよ?」
その通り、まだもう一体のシリウスが残っている。
手札にもマナゾーンにも闇のカードが無いため、デーモン・ハンドを引いても使えない状態だ。つまり、これ以上シリウスを破壊するのが難しい事は、初心者の竜也でもわかる。だが、竜也はこの状況を打破出来るカードに気が付く。
「いや・・・一枚だけ残ってる。来るのか・・・?」
このまま何もしないわけにもいかない。
なら、と、覚悟を決めてカードを引こうとした時、その手で感じた違和感に目を見開く。
(これは・・・なんだ?)
一瞬だが、脈動がした。それも、カード自身の震えが伝わってくるような感じに・・・
「タツ君・・・本当に終わりですか?」
「分かってるよ!」
英司が焦らすように呼ぶ声に反応すると、脈動は消えていた。
引けそうな気がした。脈動のお陰かどうかは解らないが、あのカードを・・・
「来いよ・・・ドロー!!」
引いたカードを見た瞬間、ドクン、と先程よりもはっきりとした感覚が体を駆け巡る。
「来た・・・『ボルシャック・大和・ドラゴン』召喚!」
大和。それは、鎧を身に着けた龍に与えられる名称の一つである。武者もそれと同様で、新時代を切り開かんとする刃を装備している。
「武者・ドラゴンでシールドをWブレイク。同時に俺の盾を破壊して英司のシリウスを破壊する!!」
大和・ドラゴンの能力で、武者・ドラゴンの破壊出来る上限は12000に跳ね上がる。つまり、シリウスも簡単に破壊できる。
「タージマルでブロックします!」
火のクリーチャーとバトルするときパワー8000になるタージマルがブロックしたため、武者・ドラゴンは破壊されてしまう。だが、それも竜也には計算済みだ。
「アンビシャス・ドラゴンでアクアンを攻撃、大和・ドラゴンでタージマルを攻撃、チッタ・ペロルでシールドをブレイクだ!」
ボルシャック・大和・ドラゴンはスピードアタッカーなので召喚酔いはあらず、かつ、自分の墓地にある火のカード一枚につきパワーアタッカー+1000を得る。
今、竜也の墓地には『紅神龍ガルドス』と『コッコ・ルピア』、そして先ほど破壊された『ボルメテウス・武者・ドラゴン』がある。つまり、合計パワーは9000。タージマルよりも上回っている。
「凄い・・・凄いですよタツ君!初心者とは思えない戦略です!」
「当たり前だ。俺は飲み込みと理解の早さは誰にも負けねぇ絶対の自信があるんだよ。」
「でも、こちらもまだ負けていませんよ・・・シールド・トリガー発動『キューティー・ハート』召喚です。」
どうやら奇跡は自分にだけ訪れるわけではないらしい。
「では、こちらのターンですね。『アルシア』召喚、墓地にあるヘブンズ・ゲートを回収します。更に、『エメラル』召喚。手札とシールドを一枚ずつ入れ替えます。」
そういって、英司は慣れた手つきで手札のカードとシールドを入れ替える。
(シールドを入れ替えた・・・そうか、さっきの回収したヘブンズ・ゲートか)
となると、手札に握っているのはシリウスのような巨大ブロッカーか。
「キューティー・ハートでチッタ・ペロルと相打ちして終了です。」
「あぁ・・・」
下手に攻撃して、再びあんなのが出てきたら対処できない。それどころか不利な状況に逆戻りだ。
とりあえず、場を増やさなければ。
「紅神龍バルガゲイザー召喚。ターン終・・・」
「ブレイクしなくて、いいのですか?」
落ち着け、これは英司の企みだ。下手に動かずとも数を並べて攻撃したらいける。
「あぁ、そっちの番だぜ」
「では・・・アルシアを元に進化、『精霊王アルカディアス』降臨!」
勢いよく放たれたカードは、アルシアの上に重なり、新たなクリーチャーへと進化した。
「え・・・?」
「アルカディアスでシールドをW・ブレイク!」
竜也の場に残った二枚のシールドが一気に破られる。しかし、ただ破られるわけではない。
「あぶなかった・・・シールド・トリガー発動、『地獄スクラッパー』。エメラルを破壊だぁ!」
静寂・・・
「タツ君・・・」
「残念だったな、やっぱり俺の勝ちだ。いや~、何やっても上手いって罪だな~」
悪く思うな英司、これが実力の差だ。
「タツ君、これ読んでください」
「あん?なんか書いてるのか?」
えっと、『誰も光以外の呪文を唱えることができない』。ん?
唱えれないってどういうことだ?これじゃあまるで・・・
「・・・英司、これはどういう?」
「つまり、光以外の呪文は使えないんですよ。デーモン・ハンドも地獄スクラッパーも」
ということは、この勝負の結果は・・・
「僕の勝ちですね。」
信じられない、まさか、どんぐり状態だったあの場面からひっくり返されるなんて。いや、それこそ栄司の戦術の一つだったのかもしれない。



「参った参った、すげーな英司。まさかあそこでひっくり返されるなんて・・・」
「面白かったですか?」
「まぁ、そこそこには・・・な」
悔しいが、英司の戦略には感服だ。賞賛に値する。いや、賞賛というのはまた違うか・・・?
「では、約束は約束ですよ」
「約束?」
「連れて行ってくれるって約束してくれたじゃあないですか!大会にも出るって」
「あ・・・」
すっかり忘れていた。
「この調子じゃあ、会場についてもすぐ緊張でまともにデュエルできそうに無いですね。でも安心してください。これから戦術とかも教えますので、大会の頃には一人前にして見せますから」
頼んでもいないのに、と嘆息するが、どうやら俺自身は満更でもなさそうだ。
「はいはい、よろしく頼みますぜ。お師匠さん」



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